アンドレア・バッケッティ Andrea Bacchetti(ピアノ)
《バッケッティのピアニズム》
▶幻想曲 ニ短調 K397
Fantasie in d K397
▶ロンド ニ長調 K485
Rondo in D K485
▶ピアノ・ソナタ ニ長調 K576
Sonate in D K576
▶ピアノ・ソナタ ハ長調 K330
Sonate in C K330
▶ピアノ・ソナタ 変ロ長調 K333
Sonate in B K333
私は4~5歳くらいの時に音楽を聴き始めました。ホルショフスキ、ホロヴィッツ、リヒテル、ブレンデル、アラウなどが演奏したモーツァルトの美しいソナタや協奏曲などです。それから少しずつ多くの偉大なピアニストたちの演奏を聴くようになり、今日にいたるまでそれは続いています。いつも聴いてはテープが擦り切れるほど夢中になっていて、子どもの頃は眠る前に聴く大好きな音楽でした。私は11歳の時、ミラノでシモーネ指揮イ・ソリスティ・ヴェネティとの共演でデビューしましたが、その時に演奏した協奏曲はK41とK414でした。その後、ブレシア・ベルガモ国際ピアノフェスティバルでは幻想曲K397を演奏し、長い月日が経った今でも心に強く残る、忘れられない出来事となりました。
こうして、ゆっくりと、私の“人生”はアマデウスとともに始まり、もちろんバッハや他の作曲家とも歩みを進めていくことになりました。
ここで、多くの記憶の中でも、モーツァルトに関連してとりわけ2つの美しい芸術的な経験をお話ししたいと思います。
私が12~13歳の頃、マエストロ・カラヤンと知り合い共演する光栄に恵まれました。マエストロとの最初のオーディションは、ザルツブルク音楽祭での彼のプライベート・スタジオで行われました。私はソナタK333を演奏しました。弾きながら、同時に、歌いました。マエストロは大変な愛情を持って私の演奏を聴いてくれました。そして最後に、私をたくさん褒めてこう言うのです。「歌うのはとても大切なことです。なぜなら音楽はあなた自身の一部だからです。でも、“心の中で”歌わなくてはいけません。すなわち、その場にいる人たちには聴かれることなく、です。ソナタはピアノだけのためにではなく、“歌とピアノ”のためにあるのです」そして彼も指揮をする時には歌っていること、感じながらそうすることが好きであること、でも聴かれないように“心の中で”そうしていることを、話してくれました。それ以来、私にとって人間的な、美しい芸術的な経験が始まりました。マエストロのおかげで私はモーツァルテウムで学ぶ奨学金を得て、数年間、夏期アカデミーに参加することができました。
その後まもなく、由緒あるルツェルン音楽祭弦楽合奏団の指揮者を務め、日本でもよく知られているマエストロ、ルドルフ・バウムガルトナーが私のコンサートに来てくれました。その時の演奏曲はK41とK414の協奏曲でした。彼はとても感動し、私の楽屋に来てくれて、すぐに彼が教えるルツェルン音楽院に招いてくれました。私は彼とモーツァルトの協奏曲の勉強を始め、バッハについても学びました。協奏曲K414から始め、K413、K415や他の作品、そして同じようにバッハの協奏曲も、彼が見事に指揮する弦楽合奏団との共演で、ルツェルン音楽際、チューリヒ、ミラノなどで演奏しました。長年にわたり、一緒に演奏していたのです。室内楽的なレパートリーを学ぶ上で大変なトレーニングになり、今でも感動とともによく覚えています。
今回のモーツァルト・プログラムは、私が幼少および青年時代に情熱を注いだものから考えました。美しい幻想曲K397は演奏する度に、たとえ自宅であっても、心動かされる作品です。K330, K333, K576の3つのソナタは、アマデウスが書いた全ての作品やソナタの中でも根幹を成す作品だと、私は思います。技術性、歌心、色彩、フレーズは、どれもよく考えられ整えられています。
たとえ何ヶ月も、あるいは何年も繰り返していても、モーツァルトは演奏する度に何か新しいことを発見させてくれます。この何か新しい感覚は、演奏する人だけではなく、それを聴く聴衆の皆さまにも感じていただけるものだと思います。
以上が今回の曲目に関係する私の経験です。私の心の中で、生まれ、育ち、熟した考えを、人生を通じて止まることなく―“クレッシェンド・イン・コンティヌオ”のように―お客さまにお聴かせすることができればと願っています。
これが私にとってのモーツァルトです。お楽しみいただけますと幸いです。
アンドレア・バッケッティ
2012年夏、札幌で行われたPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)に指揮者ファビオ・ルイジの強い推薦で登場したアンドレア・バッケッティは、PMFオーケストラとモーツァルトのピアノ協奏曲第17番を、教授陣とモーツァルトのピアノと木管のための五重奏曲とピアノ四重奏曲 第2番を演奏し「バッケッティは天才的ピアニストだ」と驚きをもって迎えられた。
その反響から2014年7月に初めてのリサイタルツアーが実現し、J.S.バッハとモーツァルトの演奏で高い評価を得た。
イタリア・リヴィエラ海岸、レッコに生まれる。
幼少期から、カラヤン、ホルショフスキ、ベリオといった芸術家から薫陶を受ける。特にカラヤン、ベリオとの関係は特筆すべきものがあり、バッケッティの才能に感銘を受けたカラヤンがベルリン・フィルとのリハーサルに招き入れたほどである。また、ベリオとは彼が亡くなる2003年まで緊密な関係を持ち、ベリオ監修のもと録音を行った。
11歳でクラウディオ・シモーネ指揮、イ・ソリスティ・ヴェネティとミラノで共演し、デビュー。ザルツブルクのモーツァルテウム音楽大学、パリ国立高等音楽院、ジェノヴァのニコロ・パガニーニ音楽院で学び、イモラ国際ピアノ・アカデミーでは、フランコ・スカラに師事する。1996年にプレミオ・ヴェネツィア・コンクールで優勝、2006年ウンベルト・ミケーリ国際ピアノ・コンクールでも入賞し、受賞歴も数多い。
これまでに、ミラノ、ローマを初めとするイタリア国内はもとより、パリ、ロンドン、ベルリン、ライプツィヒ、東京などの世界主要都市でリサイタルを開催。ザルツブルク音楽祭を含む多くの音楽祭からも数多く招かれている。
録音はイタリア・ソニーを中心に数多く行っており、2014年ソニー・クラシカルよりJ.S.バッハの「鍵盤作品全曲録音チクルス」、「フランス組曲(全曲)」が続けてリリースされ話題となった。2016年5月にはその第3弾となるJ.S.バッハの「ピアノ協奏曲全集」をリリース。気心知れた名門RAI国立交響楽団の弦楽アンサンブルを弾き振りしている。また、バッハのインヴェンションとシンフォニアのCD(DYNAMIC社)では、2011年4月のBBCミュージック・マガジンで“Discs of the Month(月間最優秀賞)”に選ばれている。
東京文化会館チケットサービス 03-5685-0650
日本モーツァルト協会 03-5467-0626
※学生券は日本モーツァルト協会のみ取り扱い
バッハ:イギリス組曲 第2番 イ短調 BWV807よりプレリュード
シューベルト:即興曲 変イ長調 D935
※ 出演者・プログラムは変更することがございます。予めご了承ください。
※ 10歳以下の方の入場はご遠慮下さい。
※ 会場での無断撮影、録音は固くお断りします。